青森地方裁判所 昭和48年(む)133号 決定 1973年8月25日
被疑者 工藤敏秋 外三名
主文
本件各申立を棄却する。
理由
一、本件各準抗告申立の趣旨および理由は別紙「準抗告及び裁判の執行停止申立書」記載のとおりである。
二、そこで、本件被疑者四名の逮捕が違法であるか否かについて検討するに、司法警察員作成の本件被疑者四名に対する各現行犯人逮捕手続書および伊藤忠雄、石岡勝、沢田隆雅の司法警察員に対する各供述調書によれば、本件被疑者四名が恐喝および恐喝未遂で現行犯逮捕されるに至る経緯、逮捕時の状況は、青森警察署浪打警察官派出所巡査から昭和四八年八月二〇午後五時五三分ころ、青森警察署に、青森市合浦二丁目一六所在の合浦公園内で六名位の若者が喧嘩している旨の申告があつたとの連絡に基づき警察官四名が同公園に被害者らの友人沢田隆雅を伴つて赴き、目撃者について捜査中、同日午後六時三〇分ころ、同署本部無線指令室から同市花園二丁目一九の一一所在の青森県農業協同組合学園に、普通乗用自動車で連れ去られた同学園の生徒二名中一名が犯人達から現金を持参するよう脅迫され、帰つて来ている旨の通報があつたとの連絡を受けて同所に至つたところ、右学園前路上に前照灯を点灯したまま駐車中の普通乗用自動車(クラウン、足立五五そ六四―六二号)があり、車内後部座席右端に伊藤忠雄が、同座席左端に、右沢田隆雅が説明していた服装、頭髪の男が、その他三名の者が居るのを発見し、その場で「どうしたの」等と職務質問を開始したところ、被疑者四名は「俺達は何も知らない。」などと答え、一方右伊藤は、公園から右乗用車に乗せられ、一万円を脅し取られた他顔面を数回殴られた旨申立て、更に同学園に戻つていた被疑者石岡勝に被疑者四名を確認させたところ、「この連中に先程一万円を脅し取られるところでした。」旨申立てたので警察官は本件被疑者四名を、右伊藤忠雄に対する恐喝の準現行犯人として、石岡に対する恐喝未遂の現行犯人としてそれぞれ逮捕したことが認められる。
ところで、現行犯人として逮捕し得るためには、現に罪を行い、または、現に罪を行い終つた者であることがまた準現行犯人として逮捕し得るためには、刑事訴訟法二一二条二項各号に該当する事実がそれぞれ現場の状況から逮捕者に直接覚知し得る場合でなければならないのであつて、被害者の報告以外に外見上その者が犯罪を行い、あるいは、行つた者であることを直接知覚し得る状況の存しないときには現行犯人若しくは準現行犯人として逮捕することはできないものと言わなければならない。
しかるに、前示認定事実によれば、本件被疑者四名が右石岡から金員を喝取すべく右学園正面路上の乗用車内で待機していて、恐喝行為が継続していたと認めるについての資料については、被疑者の逮捕者への申立ならびに被害者からの警察本部への申告に基づく警察署からの逮捕者への指令以外に逮捕現場における被疑者の態度、行動等から恐喝行為が継続中であることを覚知し得る状況にあつたと認めるに足る資料はなく、また、被害者伊藤に対する恐喝についても同様であつて、賍物である一万円紙幣に関しては司法警察員作成の領置調書、および証拠品領置報告書によれば青森警察署で被疑者工藤敏秋の取調の結果同署で発見されたものであることが認められ、右事実によれば右工藤の賍物所持の事実が同人逮捕の時点で外見から認められる状況下にあつたとは言えず、この点に関する警察官の主張は失当であり、更に、右被疑者四名の逮捕は被害者に代つてなされたものであり且つ、被害者が直接覚知した事実により被疑事実を認定したもので、その判断の客観性は担保されている旨主張するが、本件各現行犯逮捕は警察官が被害者から独立して逮捕に当つているのであつて、現行犯人であることの覚知は逮捕に当つた警察官のそれを指すものというべきであるからこの点に関する主張も失当である。
したがつて、本件被疑者四名の逮捕は緊急逮捕の手続をとるのは格別、現行犯人ならびに準現行犯人として逮捕するのは違法であることを免れず、本件被疑者四名に対する勾留請求は、いずれもその前提である逮捕手続が違法であり右請求を却下した原裁判は相当である。
よつて、本件請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。
(別紙 略)